世界初の「自動運転」死亡事故、メーカーが「お咎めなし」の理由

公開日: 

先駆的な「自動運転」による世界初の死亡事故に対し、メーカ
ーには「お咎めなし」の裁定が下された。昨年5月、米テスラ
・モーターズの「オートパイロット」が関与したドライバー死
亡事故に対し、米国の行政機関がこのほど「製品に欠陥はなか
った」とする調査結果を発表した。

が、同調査からは、この種の「(半)自動運転」機能に混乱す
るドライバーの様子など、深刻な問題も浮かび上がってくる。

オートパイロットとは何かオートパイロットは米国の電気自動
車メーカー「テスラ・モーターズ(以下、テスラ)」が、2015
年10月にリリースした(公式には)「運転支援機能」の一種だ
(日本でも利用可能)。

従来の運転支援機能に含まれる「自動ブレーキ」や「車線キー
プ」などに加え、「前方車両の追い越し」なども自動でできる
ため、テスラはこれを事実上の「(半)自動運転」機能として
売り込んでいた節がある。それは、まさしく「オートパイロッ
ト(自動運転)」という呼称からも窺える。

このためテスラ・ユーザー(ドライバー)の中には、オートパ
イロットにクルマの運転を丸投げして、自分は運転席でビデオ
ゲームやDVD視聴などに耽る人も出てきた。

テスラはあらかじめユーザーに対し「オートパイロット使用中
は、必ず両手を軽くハンドルにかけ(いつでも運転できる態勢
を整え)ておいてください」と断っていたが、そうした使用ル
ールを無視するドライバーも少なくなかった。

彼らが、自ら車中でビデオ撮影した「手放し運転」の様子など
をユーチューブ上で公開したため、オートパイロットの使用実
態に対する懸念が早くから高まっていた。

オートパイロットの使用環境
冒頭で紹介した事故は、そうした最中の2016年5月7日、米フロ
リダ州をほぼ南北に縦貫する「US-27A(国道27A)」上で起きた。

ちなみにUS-27Aのような米国の「highway(幹線道路)」は基
本的に無料で利用できるので、制度的には、ちょうど日本の国
道のような「一般道」として位置付けられている。

しかし、実際には制限速度が「65mph(時速104キロ)~90mph
(時速144キロ)」程度と高速で、しかも本車線に合流するた
めのランプ(入・出路)なども用意されているので、自分で米
国の国道を使ってみると、体感的には「事実上の高速道路」と
いう印象を受ける。

実際、以下のウィキペディアに掲載された「US-131(国道131号)
」の写真からも、それが裏付けられる。

オートパイロットは基本的に、(複雑な運転を要求される市街
地などではなく)こうした幹線道路(高速道路)上に限って使
われる決まりになっていた。

異常な構造の高速道路

この図にある「US-27A」上を西から東の方向に、(オートパイ
ロット使用中の)テスラ「モデルS」(図中のV02)は74mph
(時速118キロ)で走行していた。そこへ対向車線を走行中の
大型トレーラー(図中のV01)が、分岐道「NE 140th Court」
に入るために突然左折してきた。

高速走行中のモデルSはこれに対応できず、(左折した直後の)
トレーラーの右側面に突っ込んで、その底部と道路との間にで
きた隙間を通過。その際、モデルSは車体の天井を引き剥がさ
れながら、トレーラーの左側面へと突き抜け、そのまま高速道
のフェンスを突破し、外に立っていた電柱に激突して大破。
ドライバーは死亡した。

この図に示された「(事実上の高速道路としては)異常な道路
構造」は、統計学的には、いわゆる「ファットテール(正規分
布からのズレ)」と見ることができる。

なぜなら、概ね時速100キロ前後でクルマが行き交う高速道路上
で、対向車線から来たクルマが(立体交差もなしに)同一平面
上でこちら側の車線を横断することは常識(正規分布)的には
あり得ないからだ。

しかし(図1に見るように)実際には、そうした異常な構造の高
速道が(ごく稀にではあるが)存在する。これが前述の「ファッ
トテール」と呼ばれる現象だ。

参照)http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49777

(詳細は省くが、これから起こり得る事態を正規分布に従って
予想する「統計・確率型の人工知能」を搭載した)オートパイロ
ットは、この「統計学的な異常事態」に対応できずに事故を引き
起こした。

ただし、こうした見方はあくまで「原理的な側面」を示したに過
ぎず、より具体的で詳細な事故原因となると、その真相は判明し
ていない。

もっとも、この事故の直後、テスラはその原因を「(モデルSに搭
載されたオートパイロット用の)ビデオカメラがトレーラーの白
い車体と、その背景にある快晴の青空を区別できなかったため」
とする公式見解を発表したが、それが本当の原因であるかどうかは、
いまだに分かっていない。

政府機関による調査結果
また政府機関である「National Highway Traffic Safety Administ
ration:NHTSA(国家幹線道路交通安全局)」と「National Transp
ortation Safety Board:NTSB(国家運輸安全委員会)」も、各々、
事故の直後から調査を開始していた。このうちNHTSAによる調査結
果が、今月19日に発表された。

それによれば、「オートパイロットは、あくまで前方車両との追突
事故などを防ぐために設計されており、(今回の事故のように、対
向車線を走っていた車両が、こちら側の車線へと侵入し)横断する
という事態は同システムの能力の範囲外にある」
(NHTSAの公式見解より)という。

スポンサードリンク

ここで気を付けなければならない点は、テスラがあらかじめユーザ
ーに対し「オートパイロットは(自動運転ではなく)あくまで運転
支援機能であり、これができることには限界がある」と断っていた
ことだ。

このためNHTSAとしては、「テスラがオートパイロットの限界を事
前にユーザーに通知していた以上、その限界を超える事態によって
事故が引き起こされた場合、その責任をオートパイロット(つまり
テスラ)に押し付けることはできない」と判断したのだ。

要するにNHTSAは「オートパイロットは全く安全なシステムなので、
ユーザーは安心してこれを使うことができる」と言っているわけで
はない。むしろ「非常に限られた能力しかないので、ユーザーはそ
れを承知した上で慎重に使ってください」と言っているのだ。

つまり「オートパイロットに欠陥はない」というのは、あくまでも
「テスラがあらかじめユーザーに通知していた製品スペックと相違
ない」という意味から、「欠陥がない」と言っているに過ぎない。

これと併せ、(今回の事故で死亡した)ドライバー側の責任にも言
及している。それによれば、対向車線を走っていた大型トレーラー
が左折を始めて、そこからテスラ「モデルS」と衝突するまでに、
少なくとも7秒間の時間的猶予があったという。

もしもドライバーが(あらかじめテスラが定めたように)オートパ
イロット使用中でもハンドルに軽く手をかけ、周囲の状況に注意し
ていたとすれば、この7秒間で自ら運転の態勢を整え、十分、事故
を回避できたはずだ。

逆に、事故を回避できなかったのは、ドライバーが車内でDVD視聴
に耽るなど、想定外のオートパイロットの使い方をしていたためで
あり、その責任はドライバー自身にある――これが調査を終えた
NHTSAの公式見解である。

一方、今回の事故原因の具体的詳細については、もう片方の政府機
関であるNTSBが調査を続けており、その結果は現時点で未発表だ。
ただ今回のNHTSAによる調査結果から見て、テスラ側の事故責任が
NTSBによって改めて指摘される、という事態にはなりそうもない。

消費者保護より産業育成を優先?
以上の経緯をテスラは当然好感しているが、彼らだけでなく世界の
主要自動車メーカーらも喜んでいる。

もしも正反対の裁定が下され、オートパイロットの製造物責任が問
われるような事態になっていたとすれば、近い将来、巨大な新市場
を生み出すと見られる「自動運転技術」の開発・製品化を阻害する
ことになったはずだ。

これを未然に回避できたことで、関係業界一同が今、胸を撫で下ろ
しているところだろう。が、他方、ユーザーの立場から見た場合、
今回のNHTSAによる調査・裁定には幾つかの問題が見られる。

一つは、テスラ側による(事実上の)誇大宣伝があった事実を、
NHTSAが容認した点だ。確かにテスラは公式見解ではオートパイロッ
トを「自動運転ではない」と断っていたが、実際には半ば自動運転
に近い機能として、事あるごとにメディアなどを通じて宣伝していた。

これによって(今回、事故で死亡したドライバーのように)オート
パイロットの能力を実力以上に過信するユーザーが多数出たことは
否めない。調査結果の中で、NHTSAはこの点に言及はしたものの、
その責任を厳しく追及するところまでは行かなかった。

中途半端な機能はドライバーを混乱させる
もう一つは、オートパイロットのような(事実上の)半自動運転な
らではの危険性が確かめられたことだ。

実は今回の死亡事故以外にも、オートパイロットが関与した事故、
あるいは事故すれすれの事態は全部で数十件に上る。今回、NHTSA
はそれら全てを調査したが、そこから浮かび上がってきたのは
「mode confusion(ドライバーの混乱)」という現象だった。

つまり半自動運転の場合、クルマの制御権が「ドライバー」と
「自動運転機能」の間を行ったり来たりする。その間に「今、クル
マを運転しているのは自分なのか、それとも自動運転機能なのか?」
とドライバー(ユーザー)が混乱してしまう。

これが「mode confusion」で、オートパイロットが関与した事故の
主な原因となっている。こうした現象は以前から予想されていたが、
今回、NHTSAの調査によって、それが実際に確かめられた、というわけだ。

グーグルのように、いきなり完全自動運転の実用化を目指すのでは
なく、むしろ半自動運転から着手して、徐々にそのスペックを上げ
ていき、最終的に完全な自動運転を実現する。

これはある種、現実的なアプローチとして世界の主要メーカーが採
用している手段だ。しかし、そこには「mode confusion」という宿
命的な問題がつきまとう。

その一方で、NHTSAは「(オートパイロットの一部である)自動ステ
アリング機能(Autosteer)の導入後、テスラ車の事故率が(導入前
より)40%も低下した」との調査結果も報告している。

つまり、この種のシステムの一長一短を天秤にかけて、今回の裁定
に至ったと見ることができる。(各種の運転支援システムを含む)
自動運転技術を開発中のメーカーは業界寄りの裁定に安堵するより、
消費者側の目線から「mode confusion」など安全面の課題を早急に
解決する必要があるだろう。

スポンサードリンク

シェアありがとうございます

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

Your Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

PAGE TOP ↑